こだわりのキッチン-ソファからの導線
弱火教に入信したその日、我は神の力を得た。
グラム52円の鶏むね肉も、グラム89円の豚コマも、弱火教の力をもってすれば圧倒的ポテンシャルを発揮し皿の上で美味を披露することとなるのだ。
料理好きか、とよく言われるが、そんなことはない。
食べることが好きなだけである。
レシピ通りにきちんと材料を揃え、調味料を量り、適切な時間をカウントする料理などはめったにしない。
(たまにきちんとした料理サイトやレシピ本通りに作ったらめちゃめちゃ美味しくてすごい……となることもあるので、プロのレシピはやはりすごいのだと思うが、それはそれこれはこれである。ソレソレコレコレ。)
大体こう、ザッとやってピャっとしてジーっとしてポンとすればできあがり!う〜んおいしい!みたいなのが基本である。
その真理が弱火教。
とりあえず材料をフライパンに入れておき、あとはひたすら弱火にかけておけば良い、という手法である。
なんなら肉や魚を焼くときも、強火でガッとやるより弱火でじりじり上部にまでうっすら火が通るまで待ってからひっくり返す方が美味しかった。
だがしかし、弱火教には一点だけ欠点がある。
時間。
時間がかかる。
弱火とはいえ火を使ってるわけで、その間はさすがに目の届くところから離れられない。
『キッチンは、対面がいいですか?それとも壁付け?アイランド型?』
こだわりのキッチンを作ろうというとき、真っ先に出てくるのがこの質問である。が。
わからない。
リノベーションにあたって読み込んだ本の一節に哀しい失敗例が書いてあった。
料理好きの妻のために、夫が小さな台所を収納たっぷりの大きなキッチンにリフォームした。
大喜びした妻だけれど、日々が過ぎるにつれ調理の際にストレスを感じるようになった。
理由は、気づいていなかった自身の動作。
以前の小さなキッチンでは、実は手の届くところによく使う道具がすべて配置されていた。ところが大きくなってきちんと収納できるようになった分、取り出す動作が増えていたのだった。
ゆえに、ストレスが。
理想のキッチン。
の、ために、洗い出した自分の動作の優先度最上位は、
ソファからコンロが見えること
だった。
概ね、火にかけている時間はソファで本を読んでることが多いのだ、と。
改めて思い返してみると、これまで一人暮らしをしてきた部屋の家具配置は必ずコンロの見える位置にくつろいで座る場所があった。
望むキッチンの形はわからない。
でもとりあえず、最優先の動作を自分の中にみつけられてよかった。
設計士さんに伝えたらこう、なんか上手いことやってくれる。かもしれない。はず。たぶん。